この会社に来て10年が経つのに初めて話す同僚がいた。
諸先輩方から『入社以来30年に渡りダメな人』とレッテルが貼られている。
詳しくは知らないので
丸1日一緒なのを生かして話し込むことにした。
新卒で入社してるので50歳を超えている。ハキハキした話し方で、暴走しかけてもブレーキが効く。
会議の中では持論を展開しリーダーシップが取れる。
【今日はサポートに廻ろう】
会社に対する投げ掛けは僕が発信し会議を設定したが、年齢とリーダーシップを考えて
彼に全体の音頭を任せてみた。
淀みなく会議は進み、時間通りに向かいたい結論まで向かえた。
彼の何がダメなのか分からなかった。
工場からの帰り道は僕の運転するクルマで帰らないか促してみた。
彼を理解する為に話し込みたかったからだ。
彼は助手席に座り今日の成功を喜んでくれた。本当に良い人だった。
助手席なのでアルコールとか呑んで貰って良いですよと誘ったが会社では呑まない事にしているとの答え。
噂では酒好きだったが、良しとして帰路に向かう。
一通り、入社以来の遍歴を聞き、もともと誰の部下だったのか、誰と仲良いのか、悪いのか等教えてくれた。
全く普通に良いオジサンだった。
何が問題なのかサッパリ。
少しプライベートに踏み込む。
娘さんが2人。20歳と17歳。
『えー!でもそうか。50超えてますもんね。もうパパ~とか言ってくれないですよね?』
で、顔色が曇った。
『まぁ、ちょっと色々あってね、なかなか』
というところで急に僕は自分の家に障がい児がいることを開示した。
年齢はさておき肩書き上、僕の方が上なので話しづらいと思い弱い部分を晒したのです。
『実は・・』と深い話をし始めてくれた。
※カウンセラーにおける二重関係の禁止(同僚+クライアント等)によりクライアントではないが
プライベートな病名は書き控えるとして、懐に踏み込んだ話法を語る上で必要な流れを、ざっくり書く※
娘さんが2人とも疾患を患っていて
その事実を受けて後発的に奥さんも患い
自分以外の家族は皆、心療内科に通う状況との事。
70を超えた義母に奥さんと受験の娘さん1人を預け、20歳の子と自分の母と3人で暮らしている。
理系出身の彼は何が原因なのか分からない。どんなロジックを組んでも理解できないと吐露した。
沈黙を嫌う彼はロジカルな会話の組み立てで会話のマウントポジションをとり譲らない。
まるで頑丈な鎧を着ているかのような、ウソをつき続けていた昔の僕のようにみえた。
そこで僕は自分の本名、フルネームでググってもらうよう促した。(運転中なので)
え?これ、さちくんなの?
ズラリと並ぶギャンブル依存症の文字。
どこかでスピーカーをしたギャンブル依存症者本人としての紹介。
英語だと、新聞記事も出てくる。
彼は携帯をずっと眺めていた。
うちは、障がい児がいます。
でも僕もある意味障がい者です。
心療内科通ったことあります。
クスリは効きません。
僕のせいで妻も共依存を深めてしまいました。
源家族もめちゃめちゃです。
ど真ん中の原因は僕の依存症、その裏にある関係性の問題です。
まずは自分で回復の道を歩くしかないんです。
そのためには仲間が必要です。
1人では回復は出来ませんので。
結果的に源家族も僕の家庭内も今はうまくいっています。
努力を怠るとすぐに元通りになるから、もう2度とギャンブルは出来ません。
ギャンブルにしてもお酒にしても薬物にしても基本的には全部一緒なんですよ。
一回でも手を出したら元通り。
依存症って不可解な病気なんです。。
会社のみんなに強いと言われますが、僕は弱い人間です。
弱いから人に助けてもらうことを覚えました。
誰かが助けてくれるから色んな恐れが失くなってきました。
だから工場の体制にNG を出す等、踏み込む勇気があったのかもしれません(笑)。
クビになる覚悟ですからね。
そういった意味では、仲間の誰かのお陰で強くなったのかもしれません。
今日で言えば先輩のお陰で会議はスムーズに進行しましたし。
僕の強さは誰かに頼れる所かもしれませんね。
僕はみんなのお陰で生きられるんです。
今日も本当に感謝×2です。
クルマの中が自助会状態。
先輩はロジカルな人だから、自分の解答に気づくのが早かった。
俺、昔から酒を飲むと、よくやらかすんだよね。だから会社で飲まないようにしたんだ。
※もし彼がアルコール依存症者で家で呑んで暴れたら家族はどうなるか。。
家では呑んでますか?
呑んだ時の記憶はありますか?
奥さん、娘さんは何と言ってますか?
彼のなかで否定してた答え。
自分のアルコールが原因ではないか?という方程式を成り立たせないようにする否認。
何度も何度もホワイトボードに計算式を書き、答にたどり着く前に消すような会話。
そこに昼間にみせたキレは無かった。
話を娘さんや奥さんに戻すと、あーゆーところがダメだとか、こんなダメな事があったと雄弁に語る。
1時間の会話で、それまで1回も話した事の無い人と打ち解けた。が、僕にはもう一仕事あるように感じた。
先輩、今度、アルコールの自助会に一緒に行きませんか?
気になるなら僕は入口でバイバイしても良いですし。
頭の中で計算してるんだろうか。右上左上に目線を動かし、んー、と言いながら
『いや、自分で行ってみるよ』と答えた。
行かねーな。こりゃ。と思いつつ。否定もしなかった。
別れ際に先輩から一言。
さちくん、今度、家族の件で相談に乗ってもらえないかな。
出来れば本人たちから聞き取ってほしいんだ。
彼はアルコールを辞めないかもしれない。
でも、僕が突き付ける事実を受け止めようとしているのかもしれない。
当たり前の事ですが困っている仲間に手をさしのべる。
『当然引き受けさせてもらいます。』
ダメな人のレッテルが貼られた彼は
僕の大切な仲間の1人になった。